下痢は、犬によくみられる症状のひとつです。
しかし、その原因は様々で、何度もくり返す下痢や長引く下痢の場合は思わぬ病気が隠れているケースもあります。
この記事は、犬の下痢の原因とその対処法、健康管理のコツをまとめました。
【獣医師監修】犬の下痢の原因と対処法、健康管理のコツとは?
【獣医師監修】犬の下痢の原因と対処法、健康管理のコツとは?

この記事をまとめると
犬の下痢は以下の4つが原因で起こる場合があります。
- 食事の変化
- 感染症
- ストレス
- 病気
要約
下痢が続く場合は脱水や重大な病気の可能性があるため、早期に動物病院で診察することが重要になります。
下痢予防には、バランスの取れた食事、環境変化の対応、定期的な健康診断が効果的です。
ペット保険は高額医療費に備えるため有効であり、保険料と補償内容のバランスを見て選ぶことが大切です。
下痢とは、「正常でない排便」です。
具体的には、柔らかくて形の崩れた排便、便の水分量が増えている、排便回数が増えるなどの状態を表します。
健康な便と異常な便の違いを見分けるポイントは?
排便回数や便の性状には個体差があるため、下痢かどうかを判断するためには、普段の愛犬の排便の回数や便の性状、排便パターンを知っておくことが大切です。
なお、便秘の犬が少量の水っぽい便を排泄するケースがあり、さらに肛門や陰部からの分泌物を見て下痢だと勘違いしてしまう場合もあるため、愛犬が本当に下痢をしているのか確認する必要があります。
理想的な犬の便の形状は、ティッシュペーパーなどでつまんでも崩れず地面につかない便で、排便回数のめやすは、食事の回数と同じかプラス1回程度です。
犬の下痢の種類
犬の下痢は、便の固さや量・便の色、排便パターン、下痢が続いている期間などによって分類されます。
便の固さや量・便の色について
健康に問題が無い場合には、食事中の栄養がしっかり体に吸収されていると、便の量は少なくなる傾向があります。
しかし、何らかの原因により下痢になると、便の中の水分の含有量が増えて便の固さがやわらかくなったり、量が増えたりします。
便の水分含有量が増えると以下の様な形状の便になります。
●軟便
理想的な固さの便よりも少し水分量が多く、ティッシュペーパー等でつまむと崩れて地面につく
●泥状便
軟便よりもさらに水分量が増えて、見た目は泥状(ソフトクリームくらいの固さ)の便
●水様便(水のような便)
排便しようとして力まなくても勢いよく肛門からでてしまうような、水のようなさらっとした便
便の水分量が増えると脱水状態になることがあるため、軟便であっても続く場合は動物病院に連れていきましょう。
また、水分量や形状だけでなく原因によって黒色便・血便・白っぽい便など便の色が変わる場合があります。
黒色便は胃など上部消化管の炎症やトラブル、血便は大腸など肛門に近い位置での問題、白っぽい便は膵臓や胆嚢など脂肪の消化に関する器官の問題が考えられます。
排便パターン
便意があるのに便が出ない、出てもほんの少量しか出ない、もしくは繰り返しお腹が痛くなり排便姿勢をする状態を「しぶり」「しぶり腹」と言います。
しぶりは、大腸が原因の場合によく見られ、少量の便が頻回に排泄されたり、便の表面に粘液が付着したり血便を伴うこともあります。
下痢が続いている期間
突然発症して症状がすぐに治まる下痢、治療して数日で治る下痢を急性の下痢、治療をしているにも関わらず2~3週間以上下痢の症状が続く場合、またはいったん治っても再発を何度もくりかえす下痢を慢性の下痢といいます。
原因にもよりますが、慢性の下痢の場合は、自己免疫性疾患や腫瘍など重大な病気が発見されるケースがあるため精査が必要です。
犬の下痢の原因は様々ですが、主な原因は以下のとおりです。
食事
過食(特に子犬)、食事の変更、傷んだフードを食べる、誤食など、食事が原因の下痢です。
また、食物アレルギーや食物不耐性など、食べ物に対するアレルギー反応が原因で下痢をする場合もあります。
なお、食物アレルギーは、食物成分に対する免疫反応で食べてすぐ起こる急性の反応、食物不耐性は免疫を介在しない反応で、消化器症状や皮膚疾患などの症状が慢性的に表れるという違いがあります。
食物アレルギーは急性の反応のため原因となる食物がわかりやすく、食物不耐性はずっと与えている食べ物が原因で起こるため何が原因で発生しているのかわかりにくいという特徴があります。
感染症
細菌やウイルスなどの感染、寄生虫や原虫などの感染が原因で下痢を起こすケースがあります。
感染症は子犬や免疫力が低下している犬に多くみられるため、適切な治療が行われないと命に関わるケースもあり注意が必要です。
特に子犬やシニア犬の場合は、なるべく早く動物病院で診察を受けるように心がけましょう。
ストレス・抗生剤の服用
ペットホテルに預けたり、引っ越ししたり、または自宅に知らない人が来たり、など環境の変化によって下痢を起こすケースがあります。
これは、ストレスによって腸内細菌叢のバランスが乱れることが原因だといわれています。
また、腸内細菌叢のバランスが乱れて下痢を起こすケースでは、抗生剤の服用が考えられます。
抗生剤の服用により下痢をした場合は、一旦飲ませるのをやめてかかりつけの動物病院に相談しましょう。
病気
慢性的に下痢が続く場合や、下痢以外にも食欲不振や体重低下など健康状態があまり良くないケースでは、自己免疫疾患、内分泌疾患、腫瘍、急性膵炎や重度の全身性疾患などの原因が考えられます。
病気が原因の場合は下痢がずっと続く、痩せてくる、真っ黒な便がでるなど飼い主さまご自身が愛犬の異常に気づくことも多いため、おかしいと思ったらなるべく早く動物病院を受診しましょう。
愛犬が下痢をしたら、なるべく早く動物病院で診察を受けて治療することが大切です。
しかし、すぐに受診できない場合や、急性の下痢以外の症状が全くなく食欲も元気もある場合、無理に水を飲ませたり食べさせたりしないで、絶食してお腹を休めるという方法が下痢に対して有効なケースもあります。
ただし、半日~1日絶食しても下痢が続く場合は、動物病院を受診しましょう。
他に、以下の症状がみられたら、何らかの病気の可能性が考えられるためすぐに動物病院を受診しましょう。
- ・一日に何度も下痢をする又は下痢が何日も続く
- ・便に大量の血液や粘膜が付着する、または黒っぽい便が続く
- ・排便をしようとして何度も力むが出ない
- ・下痢以外の症状(嘔吐、元気消失、食欲不振、体重減少など)がある
病院での検査と治療は?
下痢で動物病院を受診した場合の検査と治療についてお伝えします。
一般的には、
- 1. 問診
- 2. 診察(触診・聴診)
- 3. 検査(検便・血液検査・エコー検査・レントゲン検査など)
- 4. 診断と治療
という流れで治療を行います。
正確な診断と治療のためには、問診は非常に大切です。
いつ、どのタイミングで何回下痢をしたか、下痢以外の症状やその前後に与えたもの等について記録しておくと大変参考になります。
また、検便は下痢の原因を判断するのに非常に重要な検査です。
便は捨てずにラップに包んでビニール袋にいれて動物病院に持っていくようにしましょう。
時間が経過している場合等便を持っていくのが難しい場合は写真を撮って見せるのも有効です。
下痢の治療
下痢の治療は、原因によって異なります。
一般的な治療は、下痢止めや整腸剤等の投薬、脱水があれば点滴治療を行います。
寄生虫や原虫が原因の場合は駆虫薬を投薬し、食事が原因の場合は処方食等を利用して愛犬の身体にあった食事を選ぶという治療が必要です。
腫瘍や自己免疫性疾患、内分泌疾患が原因で二次的に起きている下痢は、下痢の治療と同時に病気の治療を行う必要があります。
ご自宅でできる対処法は、いつも与えているフードをふやかして量を減らして与えるなど、消化吸収しやすいように工夫することです。
なお、下痢で身体が弱っているからと、いつも与えていない食べ物を与えるのはかえって症状が悪化する場合があるため注意が必要です。
前述した通り犬の原因は様々で、下痢を100%予防することは不可能です。
しかし、食事に気を配ったうえで定期的な健康診断を受けることは、下痢の予防効果につながります。
下痢を防ぐためのバランスのよい食事と与え方
基本的には、総合栄養食と新鮮なお水が中心の食事をおすすめします。
過食による下痢を防ぐためには、フードやおやつなど愛犬に与える食べ物の一日量を量っておき、それを2回~3回に分けて与える方法が効果的です。
なお、手作り食のみの食事を与える場合は、犬の消化器に負担のかからないこと、必要な栄養素が摂れるように動物栄養学を学んでから実践することをおすすめします。
定期的な健康チェックで異常を早期発見しよう
健康的な生活を送るためには、定期的な健康チェックは必須です。
万が一病気になっても、早期発見と早期治療で病気と上手くつきあうことで回復できる場合や、少しでも寿命を長くできる可能性があります。
最低でも年に1回は血液検査・尿検査などの健康診断を受けましょう。
犬の下痢は、一年を通してよくある症状ですが、特に増える時期があります。
具体的には、クリスマス、お正月、大型連休の間やそのあとや季節の変わり目(春~夏、秋~冬)です。
下痢は様々な原因によって起こるため一概には言えませんが、上記のような下痢が増える時期の問診の際によく聞かれる飼い主さまのお話をまとめると、以下のとおりになります。
- ・人用のごちそうを愛犬に与えた
- ・イベントだからと特別なおやつを与えた、量を与えすぎた
- ・家族がお出かけするためペットホテルに預けた
- ・愛犬と一緒に頻繁にお出かけした
- ・普段より人の出入りが激しかったり親戚や友人が家に来たりして落ち着かない環境だった
まとめると、過食や誤食、普段と違う食べ物を食べることによって起こる食事の問題、生活環境が普段と異なることによるストレスが原因であると考えられます。
犬は人間と共に生活しているため、これらの下痢の原因を完全に無くすのは不可能かもしれません。
しかし、ある程度の対策をすることで下痢を予防することは可能です。
具体的な対策は、
- ・お出かけやペットホテルに預ける際は、普段食べ慣れている食事やおやつを持参する
- ・人間の食べ物を与えない
- ・食事を変更する場合は、一度に変更するのではなく徐々に切り替えていく
- ・人間の食事の際に食べ物を欲しがる場合は、犬用のおやつをあらかじめ用意する
- ・お腹を壊しやすい愛犬は、動物病院に相談してあらかじめ整腸剤などの常備薬をもらっておく
- ・歯をきれいに保つ
下痢とはあまり関係ないと思われるかもしれませんが、歯周病は口腔内の問題だけにとどまらず全身に影響を及ぼす感染症です。常に口の中の菌を飲みこんでいるために軟便が治らないケースもあります。
歯のケアは、成犬になってケアしようとしても、嫌がって出来ないことが多いため子犬の頃から少しずつ慣らしていきましょう。
実際にあった犬の下痢の症例
注意喚起の意味を含めて、わたしの勤務先の動物病院で実際にあった犬の下痢の症例をご紹介します。
下痢の症例は特に問診が重要です。
愛犬の下痢が原因で来院された方には「普段と何か違うものを与えましたか?」と必ず確認します。
ある飼い主さまに同様の質問をしたところ、「いいえ、いつもドッグフードに鶏のササミをゆでたものをトッピングしているのですが、普段通りで変わったものは与えていません」という回答でした。
しかし、よく確認すると、「ササミをゆでて冷ましたものを冷蔵庫に保管し、一週間かけて与えている」ということがわかりました。
その飼い主さまは長年同じような与え方をしていて、今年になって初めて愛犬に重度の血便がみられたとのことでしたが、検査の結果と症状から傷んでいる鶏のササミが原因だと思われました。
余談ですが、同様の与え方をしていらっしゃる飼い主さまはかなり多く、それ以来「ササミや胸肉をゆでたものをフードにトッピングしている」という飼い主さまには、一日分だけゆでてその日に使い切るか、まとめてゆでた場合は必ず冷凍保存して一日分ずつ解凍して与えるようにお伝えしています。
ペットには人間の様な公的な保険制度はありません。
そのため、病気やケガの治療に支払う医療費はすべて飼い主の自己負担です。
治療内容によっては高額になるケースも多く、経済的な負担が大きいことが予想されます。
普段からペットのためにご自身で備える方法の他に、予想もしていなかった突然の出費に備えておくための選択肢の一つとして、ペット保険があります。
ペット保険とは、保険料をペット保険会社に支払うことで、飼い主が動物病院に支払う医療費の一部をペット保険会社が補償してくれるサービスです。
現在ペット保険を扱う会社は10社以上あり、保険会社や契約プランにより保険料や補償の内容等は異なります。
一般的には補償内容が多ければ多いほど保険料は高くなるため、ご自身と愛犬に最適なペット保険を選ぶためには情報を集めて比較検討をする必要があります。
ペット保険選びのポイントは?
「保険料はなるべく抑えたい」「なるべく多くの補償や付帯サービスを受けられる保険が安心」などペット保険に求める内容は人それぞれ違いますが、ペット保険を選ぶにあたって優先順位が高いのは、
- ・保険会社に支払う保険料
- ・補償内容
の2点だと思います。
保険会社に支払う保険料について
保険料は最も安いものでは月に500円~、金額が多いプランでは1万円前後です。
補償内容が多ければそれに伴って保険料も高くなるので、補償内容とのバランスを考えて検討しましょう。
また、保険料は加入してから終身までずっと同じではありません。
若い時は安い保険料でも更新の度に保険料が上昇するプランや、ある程度の年齢になったら保険料が一定になるプランなど保険料の見直しが行われます。
一般的には年齢が上がるにつれて保険料が高くなり、加入条件が厳しくなる傾向があります。
補償内容について
補償内容は保険会社やプランによって様々で、
- ・病気やケガによる通院や入院を含め手術もすべて補償する
- ・手術に関する治療費のみ補償する
- ・保険会社が補償する割合は30%、50%、70%が多い(90%や100%もある)
- ・1回の手術につき50万円を補償するなど手術に特化している
などがあります。
前述のとおり、下痢を含め消化器疾患は犬によくある病気です。
また、誤飲による中毒症状など思わぬトラブルのことも考慮すると、手術や入院治療と通院治療の両方をしっかり補償してくれるプランを選ぶことをおすすめします。
ペット保険を選ぶ際の確認事項
ペット保険には加入条件や補償対象にならない場合があります。
●ペット保険は「病気やケガに備える」のが目的
不妊去勢手術、ワクチン接種やフィラリア予防など予防に関するものや、保険加入以前にかかっていた病気やケガについては補償対象外です。
●補償は無制限ではなく上限(支払限度額または支払限度日数・回数)がある
●加入や更新の際に年齢の制限などの条件がある
ある程度の年齢になったら加入できない、もしくは加入していた保険を更新できなくなる場合がありますが、シニア専用のペット保険や終身に渡って補償を継続できる保険もあります。
ペット保険に加入する際には、保険料と補償内容のバランスの他、補償内容や条件をしっかり確認し、ご自身と愛犬にとって必要なプランを選びましょう。
この記事の監修者

現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
▼ドリトルけいのいぬねこ健康相談室
https://www.dolittlekei.com/
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。
ご契約の際は引受保険会社のパンフレット、webサイト等で商品資料をご確認の上、お申込みください。
また、重要事項等の説明もあわせてご確認くださるようお願い申し上げます。