わたしの勤務先に来院される方で
・犬や猫を飼い始めて「人間との絆が大切なのは理解しているけれど、もしかしたら仲間がいた方がもっと楽しく日々過ごせるかもしれない」と考えて次のペットをお迎えした飼い主さま
・「我が家はもともと2頭以上で飼うことに決めています」という飼い主さま
は、一定数いらっしゃいます。
実はわたしもその一人で、昨年、お誕生日が二日違いの子犬と子猫をお迎えしました。
そんな自分自身の経験もふまえて、多頭飼育の注意すべき点やかかりやすい病気やケガ等についてお伝えします。
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多頭飼育は、楽しさや喜びが大きい反面、同じ位大変な面があります。
注意すべき点や考えておくべき点はいくつもありますが、最も重要な注意点は
の3つです。
飼育環境
衛生的であるのはもちろん、ペット一頭一頭が快適に安心して過ごせる飼育環境が非常に大切です。特に猫は単独でのんびり過ごす時間や空間が必要で、両方が確保できない場合、多頭飼育はおすすめできません。
また、残念ながら不適切な飼い方により頭数が増えて劣悪な飼育環境に陥ってしまうケースがあり、社会問題にもなっています。
参考:環境省HPもっと飼いたい? (env.go.jp)
犬も猫も、居心地の良いケージやベッド、そしてトイレの数を飼育頭数分確保しましょう。
相性
同じ犬種や猫種、オスとメス、そして兄弟だからといって必ず相性がいいとは限りません。
また、最初は仲が良くても突然相性が悪くなってしまうケースもあります。相性の良し悪しは、ある程度一緒に時間を過ごしてみないとわかりませんが、万が一の時は生活空間をしっかり分けられるスペースを用意する必要があります。
病気や災害時などの備え
普段の食事やワクチン接種・ノミやマダニ予防のお薬以外にも、誤飲やケンカによる事故、更に病気になった時の治療費は一頭×頭数分かかります。
また、昨今は自然災害が多く、万が一の時に自分自身とペットの命の両方を守る行動が必要です。非常時の対応についても普段から考えておきましょう。
ここでは、多頭飼育のペットに考えられるよくある病気やケガについてお伝えします。それぞれ主な症状と治療費の目安を表にまとめました。なお、動物病院によって治療費の設定が異なるので、治療費については一例としてお考え下さい。
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主な症状 |
治療費の一例 |
下痢
(特にストレスによる大腸炎)
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食欲不振
腹痛
下痢(血便)
嘔吐
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検便:1,000円~2,000円
皮下注射(下痢止め等):2,000円~
皮下点滴:1,500円~3,000円
抗生剤・消炎剤投薬(7日分):
内服薬1,500円~3,000円
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下部尿路疾患
(猫:ストレスによる突発性膀胱炎が多い)
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トイレに頻繁にいく
トイレの中に座っている時間が長い
陰部を頻繁に舐めている
痛がって鳴く
尿が出ていない
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尿検査:1,000円~4,000円
レントゲン検査:1枚5,000円~6,000円
エコー検査:5,000円~6,000円
抗生剤・消炎剤投薬(7日分)
内服薬1,500円~3,000円
尿道カテーテル留置:3,000円~
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ケンカによる外傷 |
出血
動きが悪い
呼吸が早い
痛がって鳴く
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レントゲン検査:1枚5,000円~6,000円
抗生剤・消炎剤投薬(7日分)
内服薬1,500円~3,000円
消毒等:2,000円~
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前述のとおり、わたし自身は犬と猫の2頭飼いです。自分自身の体験談も含め、勤務先で実際にあった多頭飼育の悩みやトラブルについてお伝えします。
事例その1
・同じくらいの年齢のチワワのオス同士2頭飼い
仲が良くくっついて寝る時もあるが、飼い主の不在時に本気のケンカをしたらしく、片方の眼球が大きく傷がついてしまいました。
【対処法】不在時は、ケージに入れる等距離を置くことでその後は大きなけがはありません。
事例その2
・姉妹の雌猫同士の2頭飼い
非常に仲が良く常に一緒でしたが、突然仲が悪くなり、片方が近づくだけで威嚇するようになってしまいました。
【対処法】両方を基本ケージの中で飼育、少しずつ慣らしていく様にしていくことで改善するものの、以前の様にはならず分離不安に使用するサプリメントの投薬で経過観察中です。
事例その3
最後はわたし自身の体験です。
生後3か月の子猫と子犬をほぼ同時にお迎えし、飼い始めた当初は、飛び散った猫の砂を犬が食べてしまうのが悩みでした。
【対処法】トイレの形状や砂を工夫すること、一緒に遊ばせるときは目を離さない様に心がけると共に、不在時は2頭ともケージ飼いが基本です。犬はお散歩やお出かけができるので、猫はストレスが溜まらない様に時々別室で自由に遊ばせています。
なお、猫は里親募集型施設より譲渡して頂いたので、飼いはじめる前にある程度性格を見てから決めることができたのは非常に良かったと思っています。
その他多頭飼育ならではのお悩み
よくご相談を受けるのは、療法食が必要なペットと一般食でよいペットの食事の問題です。
犬であれば、別々に食事を与える等工夫できるものの、猫の場合はなかなかうまくいかないこともあります。
猫の場合は、置きエサをしないようにして時間がきたら片づける様にする、各々のマイクロチップを識別して開く自動給餌器を利用するなど各ご家庭に合わせた方法を試してみましょう。
また、日々時間に追われてしまうことも多いと思いますが、ペット1頭と飼い主さまとがゆっくり触れ合う時間も大切です。
ここでは、犬と猫の年齢別のよくある病気についてまとめました。
幼犬期(0~1歳)
<低血糖>
子犬の時期は、エネルギーや栄養素はほとんどが食事頼りです。そのため食事の間隔が空きすぎる、一回の食事がしっかりとれないなどの原因により、血糖値が下がりすぎてしまいます。低血糖の状態になるとぐったりして動けなくなるばかりか、けいれん発作が起きて昏睡状態になり命に関わる状況になることもあります。
<誤飲・誤食>
そもそも犬は何でも口に入れる習性がある上に、子犬は好奇心旺盛です。おもちゃ、人間の食べ物、靴下など飲み込める大きさであれば何でも口にする傾向があります。
また、チョコレート、玉ネギ、ブドウなど犬にとって有害な食べ物を誤食することも非常に多く注意が必要です。
子猫期(0~1歳)
<上部気道感染症(猫風邪)>
母猫からの移行抗体が減少してくる生後2か月前後にかかりやすい病気で、くしゃみ、鼻水、発熱、目やになど人間の風邪の様な症状が見られます。
原因はヘルペスウイルス、カリシウイルス、クラミジアなどの感染です。治療は点眼薬や点鼻薬、インターフェロンの投与などを行います。一旦症状がおさまっても再発する場合や、流涙や鼻づまりなどの症状が治らないケースもあります。
<消化器疾患>
消化器疾患とは食道や胃、腸など消化器系の病気のことです。この時期に特に多いのは下痢や嘔吐、そして異物誤飲です。特に飼い始めたばかりの子猫の時期は、環境の変化によるストレスや、寄生虫の感染などによる下痢が多く見られます。
また、異物の誤飲を防ぐためには、誤飲しそうなおもちゃなどを置きっぱなしにしないことが一番の対策です。いたずら好きな猫の場合には、留守番はケージに入れる様にする等工夫しましょう。
<猫伝染性腹膜炎>
猫伝染性腹膜炎は1歳未満のオスの子猫に発症しやすいと言われています。ある統計では、理由は不明ですが雑種より純血種での発生が多いという結果で、わたしの臨床経験上でも同じように純血種の猫に多い印象があります。
猫伝染性腹膜炎ウイルスは、ほとんどのイエネコが感染していると言われる猫腸コロナウイルスが突然変異してできたと言われています。症状は食欲元気の低下、発熱、体重減少が見られ、腹水や胸水が貯まるウエットタイプとブドウ膜炎、肝臓や腎機能が低下し神経症状がみられるドライタイプの二つのタイプがあります。
この病気は、どちらのタイプも非常に治療の反応が悪く、残念なことに予後不良の場合がほとんどです。
成犬期(1~7歳)
<肥満>
不妊去勢手術後に食べ物にばかり興味が集中してしまい、飼い主が食べる量を犬の要求のままに与えているとあっという間に太ってしまうのもこの時期です。肥満は高脂血症や糖尿病、膵炎、呼吸器疾患などのリスクを高める要因になります。
<歯周病>
3歳以上の成犬の約8割が歯周病もしくは予備軍と言われています。歯周病は、単に歯が汚れているという話ではなく、歯周病菌による感染症です。そのため、歯周炎が進んで歯が抜けるだけでなく、あごの骨を溶かす、心疾患や腎疾患、肝疾患などの全身に影響を及ぼします。
可能であれば毎日ご自宅で歯のケアを行うことが、歯周病を防ぐ一番の対策です。
成猫期(1歳~7歳)
<外耳炎>
折れ耳だけでなく、立ち耳の場合でも外耳炎は比較的多い疾患です。原因はマラセチア菌という常在菌の増殖や細菌感染、耳ダニなどの外部寄生虫、過剰な耳のケアなど様々です。治療は点耳薬や駆虫薬など原因に合わせた治療を行います。
<下部尿路疾患>
下部尿路疾患とは、膀胱と尿道の病気のことで、特に多いのは特発性膀胱炎です。しかし、下部尿路疾患は、尿石症や尿路感染症、腫瘍などが原因であっても頻尿や排尿困難、血尿などの同じような症状がみられるので、何が原因なのかを調べることが大切です。
また、尿道が閉塞している場合は、命に関わるのでなるべく早く治療する必要があります。愛猫がきちんと排尿しているかどうか毎日確認しましょう。
犬のシニア期(7歳~)
この時期は、加齢により様々な病気になるリスクが高くなる時期です。7歳を超えたら最低でも年に一度は健康診断を受けて、病気の早期発見を心がけましょう。
<内分泌疾患>
糖尿病や副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)などの内分泌疾患が多くなります。多飲多尿や急激に太ったり痩せたりなど体重の変化が見られたら要注意です。
<心疾患>
10歳を超えると、10~20%以上が何らかの心臓の病気にかかっているとう調査結果があります。
特に多いのは、僧帽弁という左心房と左心室の間にある弁がしっかり閉じないために血液の逆流が起きる僧帽弁閉鎖不全症という病気です。
初期は無症状ですが、症状が進行すると咳が出る、肺に水が溜まり呼吸が苦しくなるなど、生活の質が落ちてしまいます。加齢により発症リスクが高くなると言われていますが、早期発見により心臓の働きを助けるお薬や、末梢血管を広げて全身に血液が行きわたる目的で使用する血管拡張剤などの投薬で病気の進行を抑えることができます。
<腫瘍>
若くても腫瘍ができることはありますが、加齢や肥満は腫瘍ができるリスクを高めます。犬で多いのは皮膚や乳腺など表面にできる腫瘍ですが、鼻腔内や脳、消化器や骨など全身いたるところに腫瘍ができる可能性があります。
腫瘍は、もともとは規則正しく細胞分裂して新陳代謝していた自分の細胞が、何らかの原因で遺伝子にエラーが起こり無制限に増殖することによってできたものです。良性と悪性があり、治療は外科手術や抗がん剤、放射線治療など様々です残念ながら治療を行っても再発や転移を繰り返す腫瘍もあります。
猫のシニア期(7歳~)
<慢性腎臓病>
シニア期の猫が最もかかりやすい病気の一つです。症状は多飲多尿、食欲不振、毛並みが悪くなる、痩せてくるなどで、この様な症状が見られた時には腎臓の機能の7割近くがダメージを受けている状況です。
そして、壊れてしまった腎臓の細胞は元通りに再生させることはできません。治療は、内服薬の投薬や食餌療法、輸液療法などで、残った腎臓の機能をなるべく良い状態に維持することを目的として行います。
<甲状腺機能亢進症>
シニア期の猫に多い内分泌疾患です。原因は、甲状腺過形成、甲状腺濾胞腺腫、甲状腺癌で、甲状腺の機能が亢進しすぎることで、異常に食欲が旺盛になり、その割には体重が減少していきます。鳴き声が大きくなる、昼夜に関わらず良く鳴くなどの症状が見られたらこの病気を疑います。
診断は、触診や血液検査を行い、甲状腺ホルモンの値を確認します。治療は、食事療法や甲状腺の働きを止める内服薬の投薬を行う内科療法か、甲状腺の摘出手術を行う外科療法を行います。
多頭飼いにメリット!ペット保険の多頭割引で保険料を節約しよう
手術や通院費用を補償してくれるペット保険。加入していないと費用が2倍に?
大切なペットの病気やケガはどうにかして治してあげたいもの。お金がないばかりに選択できる治療の範囲が狭まるのは悲しいことですね。ペットの治療費に備えるための1つの方法として、ペット保険に加入することがあげられます。ペット保険は人間の医療保険と同様に、ペットが手術・入院・通院をしたときの治療費を請求できる制度です。
例えば治療費の50%を補償してくれるプランに加入していれば、10万円の治療費に対し5万円の保険金が給付されます。保険に加入しているかしていないかで、治療費が倍違ってくるのです。
ペット保険の多頭割引プランとは?
ペット保険を利用すれば、いざというときの手術や入院に備えることができます。しかし多頭飼いの場合、1頭1頭にペット保険をかけていくと保険料が負担にならないか心配という人もいるでしょう。保険料を安くできるお得なペット保険に加入したい、そんな人にお勧めなのがペット保険の多頭割引制度です。
多頭割引とは、同じ保険を契約するペットの数や、同一契約者による契約数に応じて保険料を割り引く制度です。加入するペットの数や契約数が多いほど保険料がお得になっていく仕組みなので、多頭飼いの人にぴったりです。
多頭割引で注目すべきポイントは?
多頭割引には年額固定割引と%による割引があります。補償が充実した高い契約する場合は%割引の方が割引金額が大きくなります。また、1頭目の契約について割引が行われるかどうかにも注目してください。
4頭以上から割引額が上がる保険もあるので、飼っているペットの数によっても保険会社を絞り込めそうです。
さらにペット保険では金額以外にも
- ・手術・通院で補償される病気の範囲
- ・免責事項
- ・加入できる年齢の期間
といった複数のポイントを確認して加入を検討しましょう。
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