ペットが相手にけがを
させてしまったときの対処法
環境省が取りまとめた動物愛護管理行政事務提要(平成29年度版)によると、犬による咬傷事故件は平成28年度の1年間だけで4,341件も起こっています。
そのうち、飼い犬であることが確認されているのが3,938匹です。
犬による咬傷事故は、飼い犬の減少やノーリードでの散歩禁止の広がりに伴って昭和56年度の14,298件をピークに減少していましたが、平成23年度の4,149件を底にまた微増傾向にあります。
そして、トラブルが生じてしまった場合に、損害賠償、慰謝料の金額が非常に高額化している傾向があります。
力の強い大型犬だけではなく、小型犬の場合でも、後遺症の残る大きなけがをさせてしまうケースもありますので、全ての犬を飼っている方、これから飼おうとしている方に密接した問題といえるでしょう。
今回の記事では、ペット、特に愛犬が相手にけがをさせてしまったときの対処法について解説いたします。
冒頭に記載した通り、愛犬が他人にけがをさせてしまう事故が後を絶ちません。
まずは、その背景や特徴について紹介します。
第三者が被害者となる事件が多い
4,341件の咬傷事故のうち、なんと4,036件もの事故が飼い主とその家族以外の第三者が被害者となっています。
割合にして92.9%ですので、非常に高い割合であることが一目瞭然です。
被害者が飼い主の場合には、よほどの重傷でなければ報告されにくいという一面は確かにあると思いますが、当然、トラブル時には身内以上に丁寧で適切な対応が求められます。
犬に攻撃するつもりはなくても、事故に発展する可能性がある
特に大型犬の場合や、相手が子ども・老人の場合には、犬が攻撃をしようとした場合ではなくても大きなけがにつながる可能性があります。
犬は噛む本能がある
ペットのトラブルをご覧になって、日ごろの愛犬のしつけが良くないと考える方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、犬が他人をむやみに噛まないようにしつけることも重要ですが、犬本来の防衛本能として噛む場合があるのも確かです。
時には、飼い主を守ろうと、第三者に噛みつくケースもありますので、犬の本能を理解したうえで飼いましょう。
飼い犬が人を怪我させてしまったときには、飼い主の方にすべての責任が発生します。
買主に発生する責任
愛犬が他人を噛んでしまったときには、法律上では民放709条の不法行為にあたり、被害者にたいして保証をしなければなりません。
【民法709条】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法上、負担すべき責任は以下の4点です。
- ・けがの治療費
- ・病院の通院費用
- ・損害賠償(噛まれた方がけがによって会社を休んだ分の休業損害)
- ・慰謝料(痛みや生活への支障などに対する補償)
愛犬が他人にけがをさせてしまったときの流れ
愛犬が、他人にけがをさせてしまったときには、以下の手順で対応を行います。
当日は、興奮状態に陥ることもあり、冷静な対応が難しいので、あらかじめ想定しておくと良いでしょう。
(1)犬を被害者の方から遠ざけてから、被害者の方に対して誠心誠意のお詫びの気持ちを伝えましょう。
トラブルを大きくさせないために非常に重要なポイントです。
(2)被害者の方と一緒に病院に行きましょう。
軽傷で、被害者の方が「病院に行く必要はない」といわれている場合でも、感染症の可能性があることを理解してもらい、一緒に行くようにしましょう。
後々のトラブルを避け、治療費の水増しをされないためにも、診断書を取っておくと良いでしょう。
(3)保健所への届け出を行います。
咬傷事故が発生した際には、事件後24時間以内に保健所への届け出義務があります。
被害者の方にも届け出を出してもらわなければならないため、協力を依頼してください。
(4)動物病院へ行き、犬の診察を受けてください。
人を噛んだ犬は48時間以内に、獣医師の診察を受ける義務があります。
狂犬病ではない旨の診断書をもらい、保健所に提出します。
(5)被害者の方との話し合いを行います。
誠意をもって対応すれば多くの場合で示談が成立しますが、成立しない場合には裁判にまで発展するケースもあります。
以上のような流れになります。
不幸中の幸いとして、示談が成立した場合でも、金銭的な負担に加えて、加害者である飼い主側にも精神的負担や労力は大きなものになってしまいます。
示談が成立しない場合には
示談がまとまらない場合には、裁判に発展してしまいます。
裁判費用は、加害者である飼い主側で負担することになります。
また、死亡事故は言うまでもありませんが、被害者の側に後遺症が残るほどの怪我をさせてしまった場合には、1,000万円をこえる慰謝料の支払いを裁判所からめいじられるケースもあります。
飼い主側の対応
購入後に、ペットの体調不良が見つかったら、直ちに動物病院で診察を受けましょう。
その際に、購入した時点で既に病気にかかっていた、あるいはその原因があったことが証明できるよう、獣医の先生に診断書を書いてもらいましょう。
購入直後に感染症が発症した場合には、購入する前からかかっていたことが立証しやすいですが、例えば購入後数日してから飼い犬がけいれんを起こして高熱を出した場合については、飼い主の管理の問題とされる可能性があります。
犬の体質や特性によるものであれば、契約解除や治療費の請求ができますので、獣医の先生に事情を説明して病因を明らかにしてもらってください。
その後、診断書を持って、ペットショップに行き、要望を伝えましょう。
ペットショップが要望に応じてくれない・・・
・販売していた時点では病気にはかかっていなかった
・病気については一切知らない
などの理由をつけて、ペットショップが要求に応じてくれずにトラブルに発展するケースが近年、目立っています。
国民生活センターの発表によると、2016年度だけでペット動物の売買に関する相談は1,422件も発生しています。
全てが、購入時点でペットが病気にかかっていたトラブルというわけではありませんが、非常に高い割合を占めています。
こうしたトラブルを防ぐためには少なくとも、大前提として正規のペット販売の登録をされている店舗で購入するようにしましょう。
(登録店舗は、店舗内に登録番号などを提示する義務があります)。
また、ペットショップの規約によっては、契約書にて「ペット購入後に病気が発覚した場合に、いかなる事情においても返金には応じない」旨の特約が記載されている場合があります。
しかし、こういった特約は、購入者側に一方的に負担を押し付ける不平等な契約です。
消費者契約法によって無効となります。
一向に対応してもらえない場合には裁判を
店舗側に一向に対応に応じてもらえない場合には、補償の請求をしてもらうよう裁判を起こすしかありません。
カギとなるのはいつの時点で病気が発症したかということです。
ペットショップ側に動物の愛護及び管理に関する法律や民放の瑕疵担保責任が課されているので、法律としては消費者の立場は守られていますが、悪質なペットショップに対して主張を通すのは非常に困難な作業が予想されます。
ペットが相手にけがをさせてしまったときの対処法について解説しました。
ペット、特に犬による咬傷事故は後を絶たない状態で、相手にけがをさせてしまったときの法律的な責任も、近年重くなっている傾向があります。
今回案内した通り、事故が起こってしまってからとれる対応としては、対応できることがかなり限られてしまいます。
リードの使用など、ペットを飼うマナーを徹底することや日ごろのしつけをきちんと行うことはもちろん重要ですが、犬には噛む本能もありますので、事故が起こってしまうことを0にすることは現実的には不可能なことです。
言うまでもなく、被害者の方との話し合いや裁判に対して、適切に対応するためには、事前の備えが非常に重要なことです。
あらかじめ、どのような備えができるか(例えば、ペット保険や弁護士相談など)、前もって考えておきましょう。