この記事をまとめると
猫の目の病気と治療費・予防法を解説。ポイントは以下の4つ。
- 猫の目の病気は感染症や外傷、腫瘍が原因となる
- 治療費は診察1000円~、手術は数十万円かかる場合も
- ワクチン接種と日々のケアで予防や早期発見が可能
- ペット保険を活用し高額な治療費に備えることが重要
要約
猫の目の病気は多岐にわたり、放置すると失明や命に関わる。
治療費は内容により大きく異なるため、予防と早期発見が重要。ペット保険で備えることが推奨される。
【獣医師監修】猫の目の病気でかかる治療費は?症状・原因と予防法を解説

猫の目の病気と治療費・予防法を解説。ポイントは以下の4つ。
猫の目の病気は多岐にわたり、放置すると失明や命に関わる。
治療費は内容により大きく異なるため、予防と早期発見が重要。ペット保険で備えることが推奨される。
猫は眼球が正面に位置しており、両眼視野は約140度といわれています。
犬の両眼視野の30度~60度と比較するとかなり広く、この能力は獲物のハンティングに役立っていると考えられます。
また、猫の体重当たりの眼球の重さは犬よりも重いという特徴があり、眼窩(目のくぼみ)のほとんどを眼球が占めています。
そのため、眼窩内に腫瘍・膿瘍などのできものができると、簡単に眼球の位置が変わったり、眼球突出を起こしたりする可能性があります。
眼瞼(がんけん:マブタ)には、犬の様に眼瞼の縁にあるような明らかなまつげが生えていないことや、瞬きが非常に少ないことも猫の目の特徴です。
猫が夜間でもよく見えるのは、暗闇でもよく見えるように光を反射したり増幅したりする役割をもつ「タペタム」という組織があるためです。
タペタムは網膜の奥にある脈絡膜に存在し、人間にはありません。
猫以外にも犬、シカ、タヌキなどの哺乳類の多くがもっており、夜行性動物が持つ特殊装置だといえるでしょう。
猫の目の病気の原因は、ウイルスや細菌、真菌などの感染症によるもの、外傷、遺伝性疾患、腫瘍など様々です。
症状別に考えられる原因をまとめました。
涙は、眼瞼の動きを滑らかにする、埃や異物を洗い流す、角膜に栄養分を補給するなどの働きをしています。
目やには、涙に含まれているムチンという物質が、汚れや古い細胞、病原体など目の表面の不要なものをからめ取って出来たものです。
そのため、目の周りに少量ついている程度であれば問題はありませんが、極端に目やにの量が増えたり、黄色っぽい目やにが出るようになったりするなど目やにの状態が変化した場合は、ウイルス、細菌などによる感染症が疑われます。
白目の部分が赤くなる、充血がひどい場合は、外傷や感染症、緑内障の他、高血圧など全身性疾患と関連して発症することがあります。
猫は、犬と比較して痛みがわかりにくいケースがあるため特に注意が必要です。
外傷などで角膜に傷ができる、異物が入るなどの原因が考えられます。
痛みがあるため、猫が目をこすることでさらに悪化する場合があります。
エリザベスカラーなどをつけて猫が目をこすらないようにしてから、すぐに動物病院を受診しましょう。
目を構成するぶどう膜という膜に炎症が起きて生じるぶどう膜炎、猫ヘルペスウイルス感染症によって白っぽい膜の様な組織が角膜や結膜にできていることなどが考えられます。
また、水晶体が変性して白く濁ることが原因で起こる白内障は猫にも見られ、12.7歳で約半数の猫が加齢性の白内障になるという報告もあります。
目の病気は、放置すると視力が失われることがあり、痛みや違和感などが原因で元気がなくなって寝ていることが増えるなど、猫の生活の質を極端に下げる可能性があります。
また、目の症状は、腎疾患や内分泌疾患など全身の病気のサインであることもあります。さらに、眼内腫瘍など命に関わるケースもあるため注意が必要です。
異常に気づいたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
結膜は、眼瞼の内面から眼球の表面を覆う連続した薄い膜の組織で、目の保護器官の役割を担っています。
結膜炎は、外傷や細菌感染・ウイルス・寄生虫の感染、アレルギーなどの全身疾患、薬剤による過敏症などが原因で結膜に炎症が起きる病気です。
猫の結膜炎のほとんどは感染症によるものが多く、特に猫のヘルペスウイルスやクラミジアによる感染症が多いという特徴があります。
目やにや結膜の腫れなど目の症状以外にも、鼻水やくしゃみなど風邪の様な症状を伴うこともあります。
治療は、抗生物質の点眼や抗ウイルス薬の点眼、インターフェロンの投与などの内科療法を行います。
なお、ヘルペスウイルスによる感染症の症状は、いったん治っても再発を繰り返すケースが多く注意が必要です。
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【獣医師監修】猫の結膜炎の治療法は?症状別ケアと注意点角膜は目の表面にある血管のない透明な膜で、外から細菌やウイルスなどの侵入を防ぐ役割をしています。
角膜には知覚神経が無数にあるため、障害を受けると激しく痛みがでて、目をショボショボさせる、目を閉じる、涙が多くなるなどの症状が見られます。
目の表面に位置するため、角膜は外からの刺激を受けやすく、炎症や傷、潰瘍などが発生しやすい場所でもあります。
角膜炎は、結膜炎と同様に外傷や細菌感染・ウイルスなどが原因で角膜に炎症が起こる病気で、原因に応じて点眼薬や抗ウイルス剤の投薬など内科治療を行います。
角膜の傷が悪化し、角膜表面に穴が開く角膜潰瘍になると、点眼薬などの内科治療では治りにくいケースもあります。
その様な場合は、瞬膜フラップ術(瞬膜被覆術)などの外科手術を行います。
また、猫特有の角膜の病気と考えられている「角膜黒色壊死症」という病気は、角膜に琥珀色~黒色の病変がみられる角膜の変性・炎症性疾患です。
病変が徐々に広がって最終的には剥がれ落ちることもあり、角膜の奥の方に向かって病変が広がることで強い痛みが表れるケースも少なくありません。
原因は、猫ヘルペスウイルス感染、慢性の角膜疾患、遺伝性などが考えられています。
治療は、原因となっている角膜への刺激を取り除くことが第一で、抗生剤などの内科治療と壊死部分を切除する外科治療を行います。
しかし、外科手術を行っても10頭に1頭程度の割合で再発する可能性があるという非常に厄介な病気です。
虹彩の表面に色素沈着が増えてくる猫びまん性悪性虹彩黒色腫は、猫の目の腫瘍の中で最も多く、さらに転移しやすいことが知られています。
緑内障は、猫ではぶどう膜炎や猫びまん性悪性虹彩黒色腫に併発して起きるケースが多く、犬よりも少ないという特徴があります。
目の病気で動物病院を受診した場合の一般的な診察や検査は、眼瞼の異常の確認やフルオルテスト(角膜表面の傷の有無を色素で染色してチェックする検査)、シルマーテスト(涙の量をチェックする検査)を行い、必要に応じて眼圧の測定等を行います。
また、全身性疾患が原因の可能性がある場合は、血液検査や血圧測定、レントゲン検査など全身のチェックが必要です。
以下の表は、目の病気の治療内容と治療費の一例をまとめたものです。
なお、治療費は各々の動物病院で独自に設定しているため、治療費は一例としてお考え下さい。
| 診察内容 | 治療費の一例 |
|---|---|
| 診察料 | 1000円~ |
| 血液検査 | 10000円~ |
| レントゲン検査 | 一枚3000円~ |
| 血圧測定 | 1000円~ |
| 眼科検査 フルオルテスト:角膜の傷のチェック シルマーテスト:涙の量のチェック 眼圧測定 スリットランプ検査:目の表面に細い光を照射して目の状態を観察する |
2000円~ 1000円~ 3000円~ 2000円~ |
| 点眼薬 | 1本につき2000円~5000円前後 |
| 洗眼処置等 | 1000円~3000円前後 |
| 抗生剤やステロイドなど内服薬の処方 | 一日200円前後×日数分 |
| 細胞診(結膜・目やに) | 3000円~ |
また、手術が必要な場合には白内障の手術で片目が30万円以上、瞬膜フラップ術という一般的な手術でも最低数万円以上の高額治療となります。
猫の目の病気を完全に予防することは不可能ですが、ワクチン接種などの感染症予防は有効な予防対策です。
また、点眼薬をさすのを極端に嫌がる猫が多いため、普段から目の周りをきれいにするなどのケアを行って少しずつ慣らしておくとよいでしょう。
子猫はおよそ生後2ヶ月を境に母猫からの移行抗体が減っていきます。
そのため、生後2ヶ月以上の子猫の時期に約1ヶ月間隔で2回のワクチン接種が推奨されています。
その後は、1年に1回のワクチン接種を行う方法が一般的です。
なお、WSAVA(世界小動物獣医師会;World Small Animal Veterinary Association)のワクチネーションガイドラインでは、定期的にペットホテルを利用する猫や多頭飼育や室内と屋外を行き来する猫は1年に1回のワクチン接種が必要であるが、コアワクチン(猫伝染性鼻気管炎・カリシウイルス感染症・猫汎白血球減少症)は3年に1回、ノンコアワクチン(上記3つ以外の猫白血病ウイルス・猫免疫不全ウイルス・クラミジア感染症など)は地理的要因や環境、ライフスタイルによって、感染症のリスクが生じる動物にのみ必要だという記載があります。
このガイドラインを受けて、ワクチン接種のプログラムについては各病院によって対応が分かれるというのが正直なところです。
参考:世界小動物獣医師会 犬と猫のワクチネーションガイドラインhttps://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf
ノミやマダニ等の予防は、完全室内飼育であっても定期的に行いましょう。
予防する期間は、お住まいの地域にもよりますが少なくとも4~11月くらいまでの期間は継続して予防することをおすすめします。
愛猫や飼い主さまご自身がつらい思いをしない様に、予防できる対策はしっかり行い、猫はできる限り外に出さないで室内で飼育しましょう。
目の病気を早期発見するためのチェックポイントは、以下の通りです。
一つでも心当たりがあったら、早めに動物病院に相談しましょう。
愛猫の目の健康を守るためには、病気の早期発見と治療は重要です。
前述した目の症状の有無を確認するとともに、日々愛猫の健康状態をチェックする習慣をつけましょう。
上記の7つのチェックポイントは、目以外にも全身の病気の早期発見に役立ちます。
愛猫の日々の健康管理の一助として継続して行うとよいでしょう。
猫は基本的に自分のテリトリーの外に出ることにストレスを感じ、知らない人や場所は苦手です。
愛猫が少しでもストレスなく受診できるようにするためには、大きめの洗濯ネットにいれてからキャリーケースにいれる、猫をすぐにキャリーケースから出し入れできるように前面と上面の2方向に扉があるプラスチック製のキャリーケースを選ぶなどの工夫をしましょう。
最近は、犬と猫の待合室が離れている動物病院、完全予約制の動物病院や猫専門の動物病院も増えてきています。
愛猫と飼い主さまご自身のストレスを最小限にとどめるためには、愛猫にあった動物病院を選ぶことが大切です。
また、かかりつけの動物病院で治療を行ってもなかなか治らない場合は、眼科専門の動物病院や大学病院を紹介してもらうなどセカンドオピニオンを受けることも考えましょう。
目の病気以外にも猫特有のなりやすい疾患があり、長期間継続して治療が必要なケースや、若くて元気な時でも愛猫の様子が急変したり、ケガをしたりする可能性は常にあります。
ペットには、人間の健康保険の様な公的な保証制度はありません。そのため、動物病院を受診した際に支払うペットの医療費は、すべて飼い主の自己負担です。
動物病院での医療費は、同じ治療や薬でも病院ごとに異なるため、手術や長期間の通院、治療が必要になった場合は、ペットの医療費も高額になる可能性があります。
このようなケースに備えてペットのためにご自身で積み立てをする、という選択肢の他に「ペット保険を活用する」という方法があります。
ペット保険とは、保険料をペット保険会社に支払うことで、飼い主が動物病院に支払う医療費の一部をペット保険会社が補償してくれるサービスです。
一般的には目の病気はペット保険の補償対象になると考えられます。
ただし、保険会社やプランなど加入条件によって異なり、さらに保険加入前にかかった病気は補償の対象外になるため、補償対象になるかどうかは飼い主さまご自身でしっかり確認しておく必要があります。
前述したとおり、目の病気は、目そのもののトラブルだけではなく身体全体の病気が原因で目に症状が表れているケースも多くみられます。
病気になってしまっても、早期発見して治療をすれば健康を取り戻せる可能性が十分にあります。
猫が快適に過ごせるためにも、ペット保険を有効に活用しましょう。
現在多くのペット保険会社がありますが、保険会社や契約プランにより保険料や補償の内容等は異なるため、情報を集めて比較検討する必要があります。
保険料は最も安いものでは月に500円~、金額が多いプランでは1万円前後です。
一般的には、補償内容が多ければ多いほど、保険会社に支払う保険料は高くなります。
保険会社や加入プランによって異なりますが、加入してから終身までずっと同じ保険料ではありません。
例えば、若い時は安い保険料でも更新の度に保険料が上昇するプランや、ある程度の年齢になったら保険料が一定になるプランなど、保険料の見直しがあることを考慮しておきましょう。
年齢が上がるにつれて保険料が高くなり加入条件が厳しくなるのが一般的で、プランによっては加入できなくなる場合もある一方でシニア用(8歳~)のペット保険も増えています。
猫の平均寿命は15歳を超えてかなり長生きになりました。
猫も年を重ねると病気になりやすくなり、シニア期になると動物病院を受診する回数が増える傾向があります。将来のことも考えて情報を集めておくと安心ですね。
参考:(一社)ペットフード協会 令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査https://petfood.or.jp/pdf/data/2024/8.pdf
補償内容は、保険会社やプランによって様々で、
などがあります。
目の病気以外にも、猫は泌尿器疾患や消化器疾患になりやすく、何度も通院が必要になるケースも考えておく必要があるでしょう。
さらに、手術が必要になる状況も考えて、通院治療だけでなく手術の補償も網羅するプランがおすすめです。
なお、保険会社による補償は無制限ではなく上限(支払限度額または支払限度日数・回数)があります。
また、ペット保険は「病気やケガに備える」という目的のものなので、不妊去勢手術、ワクチン接種や寄生虫感染予防など予防に関するものや、くりかえしになりますが保険加入以前にかかっていた病気やケガについては補償対象外なので注意が必要です。
この記事の監修者

現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
▼ドリトルけいのいぬねこ健康相談室
https://www.dolittlekei.com/
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。