猫がかかりやすい病気は、大別すると下痢や嘔吐などの消化器疾患、腎機能障害、突発性膀胱炎や下部泌尿器症候群などの泌尿器疾患、そして皮膚疾患の3つです。
このうち、慢性腎臓病は加齢が原因の一つである可能性がありますが、それ以外の病気は若い猫でも発症する可能性があります。
消化器疾患や泌尿器疾患は命に関わる症状が生じる場合があるので、お家で様子を見るという選択肢はお勧めできません。
特に尿が出ない場合はすぐに動物病院を受診する必要があります。
動物病院を受診する際の飼い主さまの不安は、「愛猫が重い病気だったらどうしよう」という病気の心配と、「高額な治療費が必要になるのでは」という経済的な心配の二つではないでしょうか?
動物病院での治療費は、全て自己負担です。
これは、人間に例えると健康保険証を持たずに医療機関を受診するのと同じで、飼い主さまの経済的な負担が大きくなる可能性があります。
この経済的な負担や心配を少しでも解消する手段のひとつが、ペット保険です。
ペット保険とは、月々の保険料を保険会社に支払うことで、病気やケガで動物病院を受診した場合の治療費の一部を保険会社が補償してくれるサービスです。
補償の割合や補償内容は加入する保険会社やプランによって異なります。
ペット保険に加入せずに、愛猫の病気やケガに備えて普段から積み立てをしておくという選択肢もあります。
しかし、ペットの病気やケガは予想ができません。
万が一に備えるという意味で、ペット保険についての情報を集めることをお勧めします。消化器とは食べ物を取り入れて、消化・分解し、栄養素として身体に取り入れ吸収し、残りの部分を排泄することに関わる器官です。
消化器疾患とは、消化管(口、のど、食道や胃、腸、肛門)の病気のことで、嘔吐や下痢、便秘、肛門周囲の疾患など様々な症状があります。
また、全ての猫ではありませんが、布や毛布、タオルなどを食べる問題行動「ウールサッキング」をする猫がいます。
なぜこのような行動をするのかは原因不明で、残念ながら完全にやめさせるのはほぼ不可能です。
ウールサッキングをする猫の誤飲を防ぐためには、布や毛布を猫のそばに置かないことだけが唯一の対処方法です。
・食欲がない
・嘔吐を繰り返す
・排便回数が増え、便の状態が普段と異なる
・肛門や陰部の周りに分泌物がついている
などです。
猫では、肛門腺が溜まりすぎて肛門嚢が炎症を起こして破裂することが多々あり、下痢だと思っていたら肛門嚢破裂によって肛門腺がついていたというケースもあります。
また、頻回の嘔吐は誤飲など命に関わる場合もあるので、このような症状がでたらすぐに動物病院を受診しましょう。
嘔吐や下痢がある場合は、
・いつからそのような症状がみられたのか
・下痢や嘔吐の回数やタイミング(食後すぐなのか、空腹時なのかなど)
・吐いた内容、便の状態や色
をメモに簡単に記録しておくと受診の際に非常に参考になります。
また、便や吐物は捨てないでビニール袋などに入れて持っていきましょう。
泌尿器とは尿を作って身体の外に排泄する目的に関わる器官のことです。
具体的には、腎臓、尿管、膀胱、尿道のことです。
猫の場合、腎臓疾患や膀胱・尿道などの下部の尿路疾患が多くみられます。
・トイレにいく回数が極端に増える
・ずっとトイレに座っている
・尿がでていない
・布団の上など粗相が増える
・水を飲む量が増え、薄い尿をたくさんする
・食欲と元気がなくなり、あまり動かない
・痩せて毛並みが悪くなる
などです。
尿が全くでない場合は急性の腎機能障害に陥る可能性があり、これは命に関わる症状です。
おかしいと思ったらすぐに動物病院を受診しましょう。
尿が全くでていない場合は、緊急性があるためすぐに動物病院に連れていく必要があります。
特に、オス猫は尿道が長くて細いので閉塞しやすいので要注意です。
泌尿器疾患では尿検査がとても大切ですが、ご自宅で採尿できない場合は無理せずにまずは受診することを一番に優先しましょう。
猫に多い皮膚疾患は、ノミアレルギーやヒゼンダニの寄生による疥癬(かいせん)症、猫ニキビ、ストレス性脱毛などです。
また、夏に多いのは蚊に刺されることが原因でアレルギー症状がおこる蚊のアレルギーです。特に耳の外側の毛が薄いところが蚊に刺されやすく、表面にブツブツと湿疹の様なものができて、顔が腫れ強い痒みがでる場合があります。
皮膚疾患は猫がかゆがって舐めて脱毛する、湿疹ができるなど飼い主さまが見てわかりやすい症状が多いのが特徴です。
室内で飼っていても庭からノミが侵入する、または飼い主の洋服にノミがついてくるなどの理由で、飼い猫に寄生することがあります。
また、痒みは猫にとって強いストレスになるので、同じ個所を何度も舐めて脱毛するだけではなく、皮膚の表面が擦れるほど舐めてしまうケースもあります。
皮膚疾患は、皮膚にノミなどの外部寄生虫がいないか確認すると同時に、どの場所に病変があるかをしっかり診察する必要があります。
特にストレス性の脱毛が見られる猫は繊細な猫が多いので、動物病院を受診する際は大きめの洗濯ネットに入れてからキャリーケースに入れると、猫になるべくストレスをかけずに診察ができます。
わたしの今までの臨床経験上、猫に多いケガは
・他の猫に咬まれる咬傷によるケガ
・交通事故によるケガや骨折
の2つだと感じます。
家の中と外の出入りが自由な猫はもちろん、完全室内飼いでも多頭飼育の場合や何かの拍子に外に脱走してケガをしてしまったケースを何度も経験してきました。
特に咬傷によるケガは、筋肉の中の深いところで膿んでしまい、腫れてきて初めて気づくこともあります。
愛猫のケガを完全に防ぐことは不可能ですが、ケガを防ぐための対策はあります。
・室内飼いをする
・不妊去勢手術をする
・脱走防止グッズを活用し、網戸や窓などに脱走防止対策をする
・多頭飼育の場合は、それぞれの猫が落ち着いて過ごせる場所を用意する
・トイレは最低でも猫の数+1が基本
・運動不足を防ぐために垂直運動をさせる工夫をする(キャットタワーの設置など)
消化器疾患、泌尿器疾患、皮膚疾患、ケンカによる咬傷や交通事故で動物病院を受診した場合にどんな治療をするのか、その際に必要な治療費の例についてお伝えします。
聴診や触診をはじめ一般的な身体検査を行い、必要に応じて便や吐物の検査、血液検査や超音波検査、レントゲン検査を行います。
嘔吐がある場合は内服薬での治療は難しいので、注射や点滴がメインです。
腫瘍や誤飲などが原因の場合は、手術や検査などでさらに治療費が高額になる可能性があります。
診察内容 | 治療費(参考) |
---|---|
診察料 | 500円~2000円 |
便検査 | 1000円~2000円 |
血液検査 | 10000円~ |
レントゲン検査 | 1枚5000円~6000円 |
超音波検査 | 6000円前後 |
点滴治療(皮下点滴) | 1回1500円~3000円 |
点滴治療(静脈点滴) | 一日5000円前後 |
制吐剤や下痢止めの皮下注射 | 一本500円~2500円 |
内服薬 | 一日100円~ |
(注)動物病院での治療費は、各々の動物病院で決めているため同じ治療を行っても費用は異なります。
泌尿器疾患の場合は、尿検査が必須です。
泌尿器系の病気の早期発見のためには、普段から定期的に尿検査を行うことが非常に有効です。
膀胱炎などの下部尿路疾患の場合は再発防止のために食事療法を行うことが多く、動物病院で処方される療法食は一般的なキャットフードより高めです。
また、何度も尿路閉塞を起こす場合や膀胱に結石がある場合は、手術を行うことがあります。
猫に多い慢性腎臓病は、腎臓の細胞が徐々に壊れていく病気のため残念ながら完治はしませんが、内服薬や点滴などで、残っている腎臓の細胞を大切にして腎臓の機能をうまく維持していくことが治療です。
そのため、治療は長期間必要になり、累計すると高額な治療費が必要になる可能性があります。
診察内容 | 治療費(参考) |
---|---|
診察料 | 500円~2000円 |
尿検査 | 1000円~4000円 |
血液検査 | 10000円~ |
レントゲン検査 | 1枚5000円~6000円 |
超音波検査 | 6000円前後 |
点滴治療(皮下点滴) | 1回1500円~3000円 |
点滴治療(静脈点滴) | 一日5000円前後 |
抗生剤や消炎剤など皮下注射 | 一本500円~2500円 |
制吐剤や下痢止めの皮下注射 | 一本500円~2500円 |
内服薬 | 一日100円~ |
手術 | 20万円~ |
ノミやダニの寄生による皮膚疾患のように駆虫薬を使用することで比較的早く治るケースもありますが、原因が判明せずになかなか治らないこともあります。
診察内容 | 治療費(参考) |
---|---|
診察料 | 500円~2000円 |
皮膚検査 | 1000円~2000円 |
駆虫薬などの投薬 | 1回1500円前後 |
咬傷によるケガは、抗生剤の投与や傷口の消毒を行い治療します。
交通事故によるケガの場合は、どの部分に問題が生じているのか調べる必要があるので、血液検査をはじめ、レントゲンや超音波検査などの検査が必要です。
診察内容 | 治療費(参考) |
---|---|
診察料 | 500円~2000円 |
血液検査 | 10000円~ |
レントゲン検査 | 1枚5000円~6000円 |
超音波検査 | 6000円前後 |
消毒処置 | 2000円~ |
最近はペット保険を扱う保険会社が増えてきたので、選択肢が広がりました。
加入する保険会社やプランによって保険料をはじめ、補償内容や付帯サービスなどは異なります。
このように多種多様なペット保険の加入プランや保険会社がある中で、何に注目してペット保険を選べばよいのでしょう?
ペット保険を選ぶポイントは大きく分けて以下の5つです。
・保険料
・補償内容の違い
・加入時の年齢
・保険料の上昇の頻度
・その他の付帯サービス
一般的に、補償内容が多ければ多いほど、そしてペットの年齢に比例して保険料は高くなります。
保険料は月額500円~1万円くらいまでと幅があるので、補償内容とのバランスを考えて選択することをお勧めします。
補償内容は、高額になる可能性がある手術のみ補償するプラン、通院も含め手術や入院も補償するプランなどいろいろなプランがあり、補償割合も30%~90%まで様々です。
猫の場合は、かかりやすい病気を考えると高額になる可能性のある手術や入院プランを網羅したうえで、通院治療も補償してくれるプランは必要だと思います。
ペット保険は、ペットの年齢が高ければ高いほど保険料が高くなるのが一般的です。
さらに、ある程度の年齢になると加入できないプランもあります。
猫の平均年齢を考えると、シニアになっても継続できるペット保険を選択することをお勧めします。
各保険会社やプランで違いはありますが、0歳から終身までずっと一定の保険料ではなく、保険料の見直しがあるのが一般的です。
若いうちは安い保険料でも、更新の度に保険料が上がるプランや、ある程度の年齢になったら保険料が一定のプランなどがあります。
ペット保険のメリットは経済的なことを含め「飼い主さまが安心できる」ことです。
動物病院での支払い時に補償額を差し引いて窓口精算できる(対応可能動物病院のみ)ペット保険や、医療やしつけについて獣医師に24時間無料電話相談ができるサービスが付帯しているペット保険もあります。
特に初めて猫を飼う方には、このようなサービスがあると安心です。
ペット保険は病気やケガのために備える目的のものなので、ワクチンや不妊・去勢手術、予防に関するものに関しては補償の対象外です。
さらに、保険加入前に発症している病気や先天性疾患については補償の対象外になるので注意が必要です。
また、ペット保険の補償には限度額や限度日数・回数など制限があります。
ペット保険に加入する際は、情報を集めて色々なプランを検討し、愛猫にあったプランを選択しましょう。
この記事の監修者
現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
▼ドリトルけいのいぬねこ健康相談室
https://www.dolittlekei.com/
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。